ラフカディオハーン(小泉八雲)と日本家屋
松江駅を降り、今回は朝ドラ「ばけばけ」でも有名になった小泉八雲を尋ねるため、松江城近くを散策しました。
松江城の周りは、武家屋敷や松江城を囲むお堀が再現され残されており、その当時の趣を当時のまま感じ取ることができます。
武家屋敷の通りの一角に、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が住んでいた「ヘルン旧居」があります。

そして小泉八雲は、この日本家屋のすばらしさを大変気に入ったと言われています。
日本の家屋は、建物の造りそのものが「自然という芸術品」を引き立てるための「余白」として成り立っています。
そこに四季折々の花や木を活ける。自然との調和を楽しむことが、日本家屋の美意識のベースとなっています。
縁側の障子をしまうと、外と内の境界が額縁のように切り取られ、自然が一枚の絵画のように立ち現れます。
住まいの中にいながら、季節の移ろいを静かに味わえるのも、日本家屋の魅力のひとつです。

小泉八雲も、蛙の鳴き声や四季折々の花々と共に、日本家屋で過ごす自然との時間を大事にしていました。私が訪れたのは3月。床の間にはお雛様が飾られており、庭には梅の花が芽を出していました。
たたみの上に正座すると、「自然の美しさ以外に何もないことのすばらしさ」を「しん」、と感じることができました。

引き継がれるものー松江の歴史
ヘルンさん、ヘルンさん、と地元の人たちに親しまれていた小泉八雲。ちょうど私が訪れた3月1日は武家屋敷の通りの中心に位置している、ヘルンが英語講師として勤めていた現在の松江北高校の卒業式の日でした。3人の女子高生が、お堀の上に架かった橋を渡っています。髪をゆるく巻き、大きな黒色のリボンのバレッタを付けて、おそろいのJKバッグにぬいぐるみのキーホルダーを付けています。
ここでもまた、「変わらないもの」と「引き継がれていくもの」が静かに交差しています。

武家屋敷の通りには、小泉八雲記念館、ヘルン旧居だけでなく、地元の有名なお蕎麦屋さんや旅館も立ち並んでいます。ヘルンも愛した日本家屋や日本庭園を通して、「ただそこに在る自然の美しさ」を堪能することができます。

武家屋敷の通りの向かいは、松の木がお堀を囲っており、お堀の水の美しさと、松の木が凛々しいコントラストを作っています。時折見えるお堀の遊覧船が、水面に真っ直ぐのラインを引く様は、また風情です。

更に、松江藩主松平不昧公はお茶や和菓子を愛した大名茶人としても有名です。
松江は「水の都」とも言われており、お茶所でもあります。私も武家屋敷の通りにあるお土産屋さんに立ち寄り、そこで、たっぷりのあんこで包まれた抹茶団子と日本茶をいただきました。お茶も大変おいしく、水がきれいな土地では美味しいお茶や和菓子の文化が育つのだなと改めて感じました。(松江の銘菓「風流堂」について綴った記事もあります。)

陰影を愛する文化ー京都と松江の共通点

一方で松江には、松の木や武家屋敷の影など、
いたるところにやわらかな陰影が見られます。
夕方には宍道湖に沈む夕日が街を包み込み、
大橋川沿いに並ぶ柳の影を、ゆっくりと長く伸ばしていきます。

明るさや華やかさだけでなく、
少しの暗さや静けさも含めて受け入れるような、
そんな空気がこの町にはあるように感じました。
その感覚は、どこか京都の街で感じたものにも少し似ているように思います。
美しいものの中にある陰の部分もまた、
自然に受け止められているような、静かな気配があります。
さらに、京都で見られるような妖怪や怪談の文化と同じように、
山陰でも「見えないもの」との距離の近さを感じる場面があります。
ラフカディオ・ハーンの『怪談』が生まれた松江、
水木しげるの故郷である境港、
そして青山剛昌の生まれた北栄町。
こうした土地では、
物語や語りを通して、見えないものとのつながりが
今も静かに受け継がれているように感じられます。
(青山剛昌については、コナンの展示会を見に行った時の思い出を
「夢のようで、少しこわい|鳥取の日本海と白兎神社の記憶」の記事で綴っています。)
出雲に住む祖父母からは、
この地域では困りごとがあると霊媒師を頼ることもあると聞いたことがあります。
また、亡くなった人の話を日常の延長として語ることもあり、
子どものころ、夜中にトイレへ行くのが少し怖かった記憶も残っています。
出雲では、家の敷地内に先祖代々のお墓があることも多く、
「死」との距離の近さも、どこか自然なものとして感じられます。
そういえば、ラフカディオ・ハーンのお母さんのルーツであるギリシャもまた、
神話や八百万の神が息づく土地として知られています。
見えないものにロマンや畏れを感じる感覚は、
海を越えて、どこかでつながっているのかもしれません。

この土地の物語
松江の宿
-宍道湖の夕日を眺める宿6選|水の都・松江で泊まる静かな時間
-玉造温泉|神の湯と呼ばれた日本最古の温泉地
