以前、「出雲の地酒」の記事でも少し触れたように、
出雲神話の中にはたびたび「お酒」が登場します。
神々をもてなし、ときには怪物を鎮めるものとして。
出雲の神話において、お酒はとても大切な役割を果たしています。
その物語の中心にいるのが、「スサノオ」です。
境港出身の漫画家・水木しげる 氏の作品でも描かれているように、スサノオはどこか人間くさい神様でした。
生まれた時に母を亡くしたスサノオは、「母に会いたい」と毎日泣いてばかりで、父・イザナギの言うことも聞かず、なかなか国を治めようとしませんでした。
やんちゃで、わがままで、でもどこか不器用な神様。
スサノオは最後に姉・アマテラスへ会いに行き、自分を分かってもらおうとします。
しかしその思いはうまく伝わらず、スサノオは大暴れ。
アマテラスはスサノオの共謀っぷりに恐れをなして、洞窟へ隠れてしまい、世界は闇に包まれます。
困った神々は、洞窟の前で祝詞をあげ、榊に勾玉を飾り、踊りや歌で神を迎えます。
外の賑わいが気になったアマテラスは、やがて洞窟から姿を現し、世界は再び光を取り戻しました。
姉との別れの後、スサノオは出雲の国へ向かい、この土地を治めようと決意します。
斐伊川とヤマタノオロチ
出雲の国を流れる斐伊川(ひいかわ)を歩いていると、川上から箸が流れてきました。

不思議に思ったスサノオが上流へ向かうと、そこには泣いている老夫婦と、美しい娘の姿がありました。
話を聞くと、「ヤマタノオロチ」という魔物が、これまで娘たちを次々と連れ去り、最後に残った娘「クシナダヒメ」も、まもなく生贄として差し出されるというのです。
クシナダヒメに心を惹かれたスサノオは、「オロチを退治したら、この娘を妻にしたい」と告げます。
そしてスサノオは、強い酒を用意してオロチを酔わせ、その隙に八つの頭を切り落としていきます。
オロチの尾を切った時、剣が折れ、その中から新しい剣が現れました。
それが後に、三種の神器のひとつ「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」になったと伝えられています。
出雲の国と、鉄の記憶
ヤマタノオロチの物語には、出雲の「鉄」の歴史が重なっているとも言われています。
斐伊川流域は古くから砂鉄の産地として知られ、後の時代には「たたら製鉄」によって栄えました。
スサノオとクシナダヒメの物語は、単なる神話ではなく、この土地の産業や記憶とも深く結びついているようです。
八重垣神社と須賀神社
スサノオとクシナダヒメを祀る神社として知られているのが、松江市の「八重垣神社(やえがきじんじゃ)」です。

ヤマタノオロチからクシナダヒメを守るため、スサノオが“八重の垣”を作って隠した場所とも言われています。
鏡の池や縁占いでも知られ、今も「縁結び」の神社として、多くの人が訪れます。

紙が沈む時間や距離によって、ご縁の訪れ方を占うと言われています。
恋に落ち、結ばれる前の、少し揺れるような時間。
八重垣神社には、そんな空気が静かに流れているようにも感じます。
一方、スサノオがクシナダヒメと新しい暮らしを始めるために建てた場所とされているのが、「須賀神社(須我神社)」です。
日本最古の和歌とも言われる、
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
という歌も、この場所で詠まれたと伝えられています。

須賀神社は、八重垣神社よりもさらに山あいにあり、夫婦になった後の静かな暮らしを思わせるような空気があります。
恋の始まりを感じたい人は八重垣神社へ。
夫婦や家族としての「これから」を願う人は、須賀神社へ。
そんなふうに、二つの神社を巡ってみるのも、出雲らしい旅なのかもしれません。
春の八重垣神社に咲く、夫婦椿
3月下旬の八重垣神社では、境内に椿の花が静かに咲き始めます。

中でも有名なのが、「夫婦椿(めおとつばき)」と呼ばれる、二本の木がひとつになった珍しい椿です。

年によっては、ハートのような形をした葉が現れることもあるそうです。
スサノオとクシナダヒメの物語が残るこの場所には、今も「縁」や「結び」の記憶が静かに受け継がれています。
松江で暮らしたラフカディオ・ハーン もまた、出雲に残る神話や、目に見えない気配のようなものに強く惹かれていました。
八重垣神社の静かな森を歩いていると、その感覚が少し分かるような気がします。
【PR】参考文献:
・神話の出雲(水木しげる著)
・まんが古事記
・出雲国風土記
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